正直者

2/6
前へ
/6ページ
次へ
 私は正直者として通っている。どんな些細な質問に対し決して不正なことはせず、包み隠さず正直に話すよう心がけていた。  それというのも、幼い頃、親に「嘘つきは泥棒の始まり」とか「嘘をつき続けていると地獄に落とされる」と、散々言われ続けてきたからだ。地獄というのが本当にあるか、どうか。それは分からないけれど。幼い頃の私にとっては、非常に恐ろしく思えて仕方がなかった。だから、どんなに自分にとって不利なことを聞かれたとしても、正直に答える。場合によっては、相手を不快な気分にさせてしまうこともある。それでも、正直に生きた方がいい。例えば、面接試験の時にも、 「どうして、君は我が社を選んだのかね?」  在り来たりな質問だったが、私は迷うことなく率直に自分の気持ちを包み隠さずに話す。心からそう思っているので、スラスラと言葉が次から次と自然な形となって表れる。対して、心に蟠(わだかま)りや見栄がある者は自分をよく見せようと、言葉を詰まらせながら話を続ける。いずれ、どこかで嘘を重ねてしまい取り返しのつかないことになるというのに。  正直に話した私は当然のことながら、面接試験は即合格した。ここまで、素直に正直に気持ちを伝えられる人は珍しいと面接官に好評だった。  このように普段から正直に生きるよう心がけていれば、役に立つ時の方が多い。それに、上辺だけ着飾っても、心苦しいだけの人生しかない。むしろ、正直に生き心を解放した方がずっと健康的といえた。  入社後の評判も上々で、上司にもよく可愛がられた。 「今時、君のような新入社員も珍しい。大抵の若者は、失敗するとすぐに、他人に責任を擦り付けるというのに、君はどんな失敗をしたとしても決して逃げることなく、自分がやったと正直に名乗り出てきてくれる。おかげで、我々としても事後処理が楽で助かるよ」  上司は感心してたけれど、私にとって正直に生きることは当たり前のことなのだ。むしろ、喜んでいる方が不思議だった。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加