正直者

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 正直に生きる。ただ、真っ当なことをしているだけで上司の評価が上がっていく。だから、私は同期に入社したどんな社員達よりも早く出世していった。もっとも、それを妬ましく思う者もいた。 「どうしたら、あいつを上司の椅子から落とすことができるだろうか」 「あいつに嘘の横領疑惑を擦り付けるとかどうだ?立場上、肩身に狭い思いをさせられるぞ」 「それでは、ダメだ。あいつは正直者で通っている。横領、どころかどんな不正を用意したとしても、あいつは一言、「やっていない」と答えるだろう。それに、社内での信頼も絶大だ。生半端な不正疑惑をつくったところで、すぐに見抜かれてしまう」  妬ましく思う者達は話し合い、私をどうにかして陥れようと計画を立てるもすぐに、頓挫してしまう。下手をすれば自分達のやったこととバレて立場がまずくなってしまう。正直者を陥れる方法、それを見つけるのすら難しいのだ。  しかし、彼らが私を陥れる計画は無駄になる。私は会社を首になった。リストラではない。社内の情報を外部に漏らしたからという立派な解雇理由があった。私だって、好きで情報を外部に漏らしたのではない。居酒屋で酒を飲み交わしていた学生時代の親友に、会社のことを尋ねられ、私は自分が持っている情報を包み隠さず話した。ただ、それだけのこと。そして、親友がライバル会社の社員だったということ。  正直者の私が話すことに何の嘘もないことを知っていた親友は酒の席で私から聞き出した情報を持ってライバル会社の、運営が有利に進むよう働きかけた。  もちろん、これは私の重大なミスであった。上司に呼ばれ、社内情報を漏らした理由を尋ねられ私は正直に事情を説明した。今更、隠す必要もなかったし、何より正直に生きるという私の考えに反するからだ。どんなに不利な状況になろうと、私は正直に伝える。ところが、上司は私を嘲りながら、 「何を馬鹿なことを言っている。聞かれたから正直にベラベラと喋る奴がどこにいる。君の頭は子供か?」と、言う。
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