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彼が出社すると同時に、私の所属する『広報課販売促進係』はたちまち異様な雰囲気に包まれます。たとえるなら、ピリリッ、と辛味が口の中に一瞬広がった感じでしょうか。
入社当時、この空気の変化に戸惑いを隠せませんでしたが、もう慣れっこです。
「フハハハ! 深淵なる眠りより目覚め、オレは今、この大いなる戦場に立った。諸君、安心するがいい。オレがきたからには、この終わりなきカオスに終焉を告げてやろう」
堂々と恥ずかしいセリフを課内にとどろかせ、後藤係長は得意げに胸を張って闊歩します。まるで重役のような足どりですが、彼の役職は係長。私よりかは偉いでしょうけど、そんなに偉くはありません。
後藤係長は、どうやら寝坊したようです。伸び放題の髪の毛はぼさぼさ。ヒゲは剃り残しだらけでした。
始業時刻から一時間も遅れてきたというのに、後藤係長は一切詫びれもせず、孤高の戦士のごとく、つかつかと自分の席へと向かいます。
その姿を、遠くの席から恐ろしい形相でにらむ課長。けど、後藤係長はまったく意に介しません。
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