第1章

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もう暗くなって来ましたね。 そこに居ますか? 僕ならいつでもいいですよ。 ん、押さないで下さい。そんなにせっつかないで。 ちゃんと集めて来ましたから、探して来ましたから。いつも出来るだけ巧く話せたらいいなと思っています。その前に聞かせて下さい。 僕は君に近付いて行けていますか。 ああ、押さないで下さいよ。 せめてペースはこっちで決めさせて欲しいな。 じゃあ、もう始めますね。 えー、これは僕の小さい頃に実際に体験した話なんですけどーー。 その当時、僕はまだ幼稚園に通ってましたから5、6歳とかだったと思います。実家で祖父母と両親の5人暮らしだったんですけどお婆ちゃんがちょっとだけ呆けていたんですね。 朝は家族みんなで朝ごはんを食べる為に台所まで来るんですけどそれ以外は自分の部屋か床の間に籠もっちゃって出て来ないんです。 だから口を聞いた事もほとんど無かったんじゃないかな。なんとなく家族から浮いてるなって雰囲気は幼心に感じてました。 お父さんともあんまり仲が良くない様にも思いました。今思えば日頃のお婆ちゃんの行動の所為でもあったんですけど。 ある時なんか、珍しく庭先に居るお婆ちゃんを見かけたので近寄ってみると庭の畑の横に屈んで何かごそごそと手元を動かしているんです。 よく見てみると新聞に一緒に挟まれて届くあの広告チラシの裏に蚯蚓(ミミズ)を並べてるんですね。 その蚯蚓共は皆、身をピンと伸ばしてるんです。 おかしいな、と思いましたよ。 その当時の僕は子供の好奇心でもってお爺ちゃんが野良仕事をしているそばで蚯蚓を触って遊んでたりしてたんで。 蚯蚓は絶えず伸び縮みして動くものだと言う事を知っていましたからね。不思議に思ってよく見ると、蚯蚓の頭から何か飛び出ているんです。 松の葉っぱでした。 これは御守りだからねってお婆ちゃんは言いました。後でお父さんに教えてあげたら嫌な顔してましたね。 そんなある日ですよ。 家の庭の隅に蜜柑の木が幾らか植えてあるんですけど、お茶の間の篭に採って置いた蜜柑を家族で丁度、食べ切ってしまったので夜に少し採りに行く事になったんですよ。 そこは昼間あんまり陽が当たらないのにどういう訳か蜜柑が沢山ぶら下がっているんです。母親と一緒に懐中電灯を下げて採りに行ったんですけど、そのうち僕はまだ小さいので付いて行くだけと言った具合でした。
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