第1章

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母親が蜜柑を採っている所をぼーっと見てたんですけどそのうち飽きてしまって懐中電灯でいろんな場所を照らして遊んだんです。 そうしたら蜜柑の一つに目が留まりましてよく見ると人の顔そっくりなんです。 形の悪い蜜柑なんてそこら中にあるんですけど気味が悪くて怖くなってしまいまして母親を呼んだら何の事は無い、近くで返事があった。それでちょっと安心しましたら他の蜜柑も目に入りまして。 驚きましたね。 その蜜柑も人の顔なんです、いやに福々とした顔でした。 そしたらその蜜柑がですね、触れてもいないのに僕にめがけて落ちて来た。 当たる、と思った瞬間。その蜜柑は大人の手で打ち払われて地面に落ちました。 後ろにはお婆ちゃんが立っていたんです。 お婆ちゃんは僕を庇った手を見せてくれました。 蜜柑が当たったと思われるその部分は赤黒くなっていて青臭いのと生ごみ臭いのが混じったみたいな強烈な臭いでした。 その後、お婆ちゃんは巾着袋から例の蚯蚓の串刺しを包んだチラシを取り出して落ちた顔蜜柑に串刺しを一本差し出しました。 すると、干からびた蚯蚓が水気を取り戻し蜜柑の皮を食い破る様にして果肉の内側を目指してめり込んで行きました。 顔蜜柑は子供が出す様な奇声を上げながら転がります。その様子を眺めているとお婆ちゃんはこう言いました。 「気を付けるんだよ、ここいら辺のは喰っついて来るからね、さぁ、メメズサマに手を合わさなきゃね」 お婆ちゃんはその夜以来、朝ごはんにも来なくなって寝たきりで死んでしまいました。きっとあの顔蜜柑の毒にやられたんでしょう、御葬式の時に片方の腕を見たら爪の先から肘の方まで変な色をしてましたから。 もうその蜜柑の木はお父さんが伐ってしまったんですが、お父さんにもあるんですよ、首の付け根辺りにあの変な色の毒が。 ……どうでした? なかなかいい線行ってたんじゃ無いですか。 悪くなかったですよね。お婆さんは何者だったんですかね。正直に言ってしまうとこの話は嘘です。嘘というか作り話です。当たり前ですけどね。ベースになる話を見付けたんで自分なりに作り変えてみたんです。蚯蚓の御守りの所とか良かったと思うんです。 あれ? 居ますか。そこに居てくれていますか。 ああ良かった。居ますね、そこに。 はい、死にます。
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