第1章

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俺と美樹との関係はそれ程深いものでは無かった。大体、美樹が死んだ事故の話も仁科刑事からの電話で知った程だ。電話があったのが昨日。 仕事が定時に終わり着替えを済ませ携帯電話を手に取ると仕事中に何件かの着信があった事を思い出した。 着信履歴には上村美樹の名前に続いて見覚えのない番号が数分置きに3件入っていて、折り返し電話をかけると男が電話に出た。 掠れた声の男だった。声の質からひょっとすると彼女の父親かと思ったが違った。 男は俺の名前を確認した後、自分は警視庁の仁科誠一ですと名乗った。 余程、携帯電話に口を近付けて喋っているのかとても聞き取り辛かった。 そしてこの電話で初めて6日前の日曜の昼頃に美樹が死んでいた事実を知らされた。 横断歩道の中で車と事故を起こし、頭を打って即死したそうだ。 その後、仁科刑事は今日の午前10時にアパートを訪ねると約束し俺の住所を聞いた後、いつでも携帯電話が通じる様にしておいて欲しいと言い、御愁傷様でしたと電話を切った。 警察の捜査と言うのか事後処理と言うか、そういうものは……そんなものなのか? 単なる事故から6日も経っていて新しい情報を探ったりするものなのか。 テレビドラマの様に事故に不審な部分が見つかったのかもしれない。 もし本当にそうだとすれば。 そうだとするのなら可能性はあるかも知れない。 まず美樹の携帯電話を刑事が保管していた事。 事故で死んだ被害者の携帯電話を何時までも警察が持っているのは変だ。 ただの事故なのだから。 次に実際、美樹の携帯電話で電話を掛けて来た事。 履歴の最初の電話は美樹の携帯電話からのものだった。 続いて入っていた持ち主不明の携帯番号は仁科刑事が用意したものかもしれない。 いくら何でも本物の刑事の携帯番号が出回るのは不味いだろうから。 これは美樹の交友関係を探る為に返信し易い様にまずは被害者本人の携帯電話を使ったと推測する事が出来る。 登録されている全ての人物に連絡を取っているのだろうか。 わざわざ家を訪ねてまで被害者の人間関係に探りを入れたがるのも納得出来ない。 普通、事故死した被害者の事をここまで調べたりはしない筈だ。 事故で死んだのなら事故の起きた現場にあった物を調べればいい訳で被害者の知り合いにまで協力を求めるのはやっぱりどう考えても不自然だ。
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