第1章

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しかし納得の行かない部分があったとしてもこちらから仁科刑事に質問するつもりは全く無い。 美樹の携帯番号を使っていた事も聞き込みをしている事も警察と言う組織が必要と判断したからおこなっているのであって、一般市民の俺には何の関係も無いし知る必要も無い。 仁科刑事と会って幾つかの質問に答えたら俺はもう用無しだ。 ため息が出た。 朝から何て無駄な想像をしていたんだろう。 何を考えていようと、思おうと誰にも影響なんて与えないのに。 外が少し明るい。 もうすぐいつもの朝がやって来る。 つまらない考えに埋もれている内に汗はすっかり引いていた。 べたべたに水気を吸ったシャツが背中に貼り付く冷たさで、どんなに多量に寝汗をかいていたのかを思い知らされた。 今まで左半身を置いていた敷き布団が水溜りの様になっているのかと思うと体を元通りの位置へ戻す気にはなれない。 体を起こして掛け布団を退かす。 丁度、布団の真ん中に座る形になった。 3月の半ばでこの暑さならもう掛け布団は片付け時、この時期は毎年こんな陽気だったろうか。 座った体勢から腰を浮かせ梯子に移動し足を投げ出し腰を降ろすと部屋全体が見渡せる。 汚い部屋だ。 物を整理せずに置きっ放しにする所為でまるで物置の様な酷い有様。 そして食器などの、生活感を垂れ流す小物の効果で、不潔な部屋は造られている。 壁側には不用品や、衣替えの日を待つ服が詰まった段ボール箱が積まれていて、ただでさえ狭い四畳半のスペースを無駄に埋めており、更にそれらと台所の間には中古のテレビやら一年中、出しっ放しの扇風機やらが雑に置いてある。 荷物が入ったまま置きっ放しの段ボールの方はどうだろう。 紙は湿気る、腐る。 傷み具合など見たくもないが、いい加減に片付けるべきだ。 溜まったゴミを面倒臭がりながらも地道に始末しなければいけないと、いつもそう思う。 ところがいざ片付けを始めると不燃や可燃だと処分に困る物もあり、まごまごしてる内に結局は中途半端で作業を中断、そのまま中止させてしまう。 多分、この部屋が片付く日は来ない。 何処かへ引っ越しでもしない限りはこのままなんだろう。 両手で梯子を掴みゆっくり下へ降りる。 梯子から床への一歩目を踏み出すと空き缶の倒れる乾いた音がした。 どうやら昨日の夜に飲んだ発泡酒の空き缶を蹴って倒してしまったらしい。
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