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さんは無理に聞き出そうとはせず、そっとしてくれたことがありがたかった。  帰り道、りんも無言で、航貴さんも黙ったまま。運転席と助手席の間隔(かんかく)が狭く、車のエンジン音だけが響く車内。りんはふと気になって口を開いた。 「来年――航貴さんが大学に行ってしまったら、お神楽は誰が舞うんですか?」 「来年も俺が舞うよ。大学にも夏休みってあるんだよ? もしかして知らなかった? それともずっと帰ってこないほうがよかった?」 「そんなことはないですけどぉ……」  航貴さんの意地悪な言い方に、りんはちょっとあきれた。  自分が東京に行ってしまうことをりんがまったく寂しがっていないことへの、そしてりんの気持ちが自分にまったくないことへのささやかな復讐(ふくしゅう)というか、いじけてるというか――りんよりずっと年上の航貴さんのことがちょっとかわいいと思ってしまった。 「来年こそはお神楽を見てね」 「はい。来年は必ず――」  再来年もその次の年も――  旭光とりんをつなぐものは綿津見神宮なのだから。   十月も半ばをすぎるころになると風が刺すように冷たくなってくる。りんは窓を閉めた。  りんが知らない白い冬が、もうすぐそこまできていた。
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