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「くるみちゃんはりんに水をかけてしまうほど航貴さんのこと好きだったっけ……? 確か旭光君のことを――」
その時だった。
クラクションが鳴った――まるでりんの祖母の言葉をさえぎるかのように。
「奈っちゃん達、きたみたいね。気をつけて行ってらっしゃい。おばあちゃん達もお神楽を見に、後で神宮に行くから」
「うん。じゃあ、行ってきます」
「どっこいしょ」と、女子高生らしからぬかけ声をかけて、りんは重たい体をひき上げた。
『夏の大祭』の最終日。
綿津見神宮は人々の熱気に包まれていた。
担ぎ手達と氏子達と、最後に行われる神楽を見物しにやってきた観光客と地元民で、神宮の敷地内はごった返していた。
H市を一日中練り歩いた神輿が、綿津見神宮に帰ってきた。ちょうど神輿納めの神事が宮司によって行われているところである。
祭が終わりに向かっている今、社務所はようやく目の回る忙しさがひと段落した。りんも奈津も放心状態だった。
社務所を訪問する氏子達にお茶を出していた町村さんが、二人の姿を見てクスクス笑った。
「二人ともお疲れ様」
「お祭にこんなにお守りを買いにくるお客さんがいるとは思わなかった!」
ため息まじりに奈津が嘆く。
「お正月はもっと忙しいんでしょうね……」
りんが苦笑すると、町村さんは大きくうなずく。
「もちろん! 一年の始まりにおみくじを引く人や、絵馬にお願いごとを書く人、破魔弓を買う人もいるし、当然忙しいっしょ。二人ともお正月にバイトにきてくれるとうれしいんだけど」
「……は……はい……」
りんも奈津も力なくうなずく。実はもうこりごりだとは町村さんには言えない……
「りんちゃんも奈津ちゃんもお神楽を見てきなよ」
「え!? ホント!? ……でも二人もいなくなったら町村さんが大変じゃないですか?」
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