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 確実に沖へと引きずられている。  何度もふりほどこうとしたが、白いか細い手はまるでマネキンのように固くこわばってりんの手を離さない。  あさひが神宮に近づくなと言った理由にようやく気がついた。それもまさに自分自身も犠牲になろうとしている瞬間に。 「その手を離せ」  ――りんの全身が心臓の鼓動(こどう)とともに波うった。  ふいに現れた姿を食い入るように見つめた。  海面からお神楽の衣装をまとう半身を見せているのは、『あさひ』だった。  ずっと会いたいと願い、もう会えないのかもしれないとあきらめていたその人だった。 「……あさひ……? あさひっ! あさひっ!」  りんは思わず叫んだ。 「な……なんだよ……? 何度も呼ぶなよ」  あさひはこの状況でびっくりするほど緊張感なく、照れた様子で口をとんがらせる。 「……あさひはしん……じゃってるの……?」  一瞬ぽかんとし、それからあさひはにやりと笑った。 「なかなかストレートな質問だな。もうとっくに気づいてるかと思ったんだけど……」 「だってあの時幽霊じゃないってあさひが言ったんじゃないっ!」  幽霊だってわかってれば好きにならないようにがんばったのに!  生まれて初めて好きになった人がもうこの世にいない人だったなんて……  あさひはりんから視線をそらした。  りんが求めているものに、自分は(こた)えることができない、その上残酷(ざんこく)な告知をしなければならないかと思うと、りんの真摯(しんし)なまなざしに耐えられなかった。 「怖がられて俺の話を聞いてくれないと困るから生きてるフリしてたけど、死んでるよ、とっくに――」  感情のないその声は、りんの胸を突き刺し、そしてあさひの胸にも鋭く突き刺さる。  あさひはくるみに向かって手をさしのべる。  くるみはあさひの行動にとまどった。
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