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「寂しくて想い人と同年代の若者を海に沈めても、寂しい心を()められない。体を手に入れることはできても心は手に入れることができないからだ。もうやめれば? そいつを殺したって兄貴の心を手に入れられないよ? その証拠に俺はお前のものにならなかっただろ? そろそろ成仏(じょうぶつ)したら? 俺んちは神社で寺じゃないけど、連れて行ってやることぐらいできるし」 「それでもっ! 他の誰かのものになるくらいならいっそ!」  痛いところをつかれ、くるみは激昂した。  波が高くなる。  しぶきがりんの顔にかかる。    りんは緋袴と白衣の袂を何かが引っぱるのを感じた。  腰帯(こしおび)ををつかまれた。  腕をつかまれた。  りんの腕をギリギリと握りつぶす五本の指の感触をはっきりと感じた。  ――これは手?  りんを海の底に沈めようとしているのは無数の手であった。 「っ?!」  声にならない叫びをあげてりんの上体はズボッと海面に沈む―― 「やめろっ!」  あさひの焦った声が遠くで聞こえ、耳は海水にふさがれた。    海は暗く、黒く、不気味なほど静かで、りんは信じられない光景を目の当たりにした。  りんの体にとりつき底へ底へ引っぱる無数の白い手を見た。  視界のきかない夜の海で、あたかもりんにその存在を示すかのように、それらは白く発光している。  生きた人のものではないそれらを、恐怖にかられたりんはふりほどこうとした。だが持ち主の見えない白い手は、りんを固くつかんで離さない。  もがけばもがくほど白い手は()のようにしなやかにりんにからみつく。  海水が気道をふさぎ息を奪う。  どこまで沈んでいくんだろう――  腰の深さまでしかなかったのに。  酸素が行きわたらないせいでボンヤリしてきた脳でりんは考えた。このまま死んでしまうんだ、と。    外界から遮断(しゃだん)された時、何かを聞いたような気がした――
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