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 りんの父親も祖父もくるみの父親も、そして航貴までもが夜どおしH市中を探し回り、ついには警察に捜索願(そうさくねがい)を出そうかという時に、海釣りにやってきたおじいさん達に二人は発見されたのだ。  海岸でりんが巫女姿のまま発見されたと聞き、りんの祖母は、一年前の同じ日に、お神楽の衣装を着たまま失踪(しっそう)し、海岸で遺体(いたい)となって発見されたあさひの事件を思い出し、卒倒(そっとう)してしまったそうだ。  りんにとって不慮(ふりょ)の出来事なのだけれど、家族に心配をかけてしまったことは申し訳なかったし、とてもつらかった。  一晩中濡れた服を着たまま海岸で寝転がっていたせいでりんは高熱を出し、意識を取り戻したのは二日後だった。  病院のベッドの上で、くるみも無事だということを人づてに聞いて、ほっとしたものの、不安が頭をもたげた。  ――助かったのはどっちのくるみ?  授業が終わり下校しようとしたりんを、航貴さんは清真女子の校門前で、『玻璃の館』の白い軽ワゴンで待っていた。旭光(あさひ)の遺体が打ち上げられた海に献花(けんか)をしたいからと誘われ、制服のままあの日以来初めてのこの海にきた。 「先週退院して今日高校に転校の手続きに行ってきたそうだよ。札幌の全寮制の高校に編入することにしたらしい。札幌の大きい病院で減圧症(げんあつしょう)の治療をしながら、学生の本分である勉強にいそしむってさ。たぶん……もう清真には行かないかも」 「そうですか……」  くるみにもう会えないということは、りんに特別な思いを呼び起こさせることはなかった。りんが知っている葉山くるみは本物の葉山くるみではなかったから。  航貴さんがりんの様子を秘かにうかがい見、ため息をかみ殺したのを、りんは知らない。 「りんちゃんは減圧症にかからなかったの?」 「はい。大丈夫でした」
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