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美しい筆跡だった。文章も同い年とは思えないくらい大人っぽかった。
その手紙からはりんが知っている葉山くるみはみじんも感じられない。りんが救ったのは、りんが救いたかった方の葉山くるみだった。
白い手に海に沈められた時、りんは本物の葉山くるみの声を聞いた。
――助けて、と。
ときどきくるみに感じていた違和感が確信に変わった瞬間だった。
聞き逃しそうなくらいかすかな声を、くるみの中に閉じ込められた彼女の声を聞いたりんは、見殺しにできなかった。
りんがびんせんを封筒にしまうのを見届けると、航貴さんは花束を海に投げる。真っ白い百合の束だった。
「くるみの話、全部本当だと思う?」
航貴さんの声は少し震えていた。
怨霊に取つかれ、あさひを溺死させたこと、それからりんをも溺死させようとしたこと、くるみが航貴さんに話したということはそのことだろう。
「……さぁ……」
りんはわずかに首をかしげた。
「私が知っていることは……海に入っていこうとする葉山さんを見つけ、岸に連れ戻したことだけです」
「そう……」
航貴さんは目を伏せる。
どうして神宮にいたのにくるみと一緒に海にいたのか?
どうして巫女姿のままだったのか?
――と、つじつまが合わないことだらけであったが、航貴さんはとがめようとはしなかった。
「くるみには誰にも話さないように言い聞かせたし、このことは伏せようと思う。もしりんちゃんが知っていることがあれば、黙っていてほしい。たくさん迷惑をかけて勝手なことを言ってるってわかってる……でもっ……」
航貴さんは言葉を詰まらせた。
「……もし本当のことが知れたら、くるみは罪に問われるかもしれない……」
航貴さんにとってくるみは妹のような存在だ。旭光も航貴さんにとって大切な弟だ。くるみから本当のことを聞いた時、かなり苦しんだだろう。
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