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真実が明るみに出れば苦しむ人はもっと増えるだろう。りんはこれ以上誰も苦しめたくなかった。真実を明かすことは正しいことばかりとはかぎらない。
「私は何も知らないので、知らないことを話すことはできません」
「ありがとう、知らないふりしてくれて。くるみはいい友達を持ったね。初めてりんちゃんに会った時、友達思いな子だなって思ったんだ。あの女の人は友達思いのりんちゃんだから連れて行こうとしたのかも」
「え?」
「だって、恋人なんていつ愛情がなくなるかわかんないじゃない? でも同性どうしの友情は一生続くでしょ?」
「そういうもんなんですか?」
「ハハ。実は経験したことないから俺もよくわからないけど。まだほんの二十年しか生きてないし……それにしても夕焼けきれいだね」
航貴さんは海の上に広がる空を仰ぎ見た。
太陽は昼の間地上に注いだ光をひきつれ、水平線に落ちかける。
黄金に輝いていた空は、薄紅に色を変えた。
「……一年前旭光がこの岸に打ち上げられてから、ここに何度もきたよ。納得がいかなかったんだ。あのくそ生意気なやつが自殺なんてするはずなかったから。いつだったか見た夕焼けが今みたいにきれいで、こんな色のガラスを作ってみたいって思って、あの食器を作ってみたんだ。まさかりんちゃんが言い当てるなんてね……正直ドキッてしたよ」
航貴さんはりんに微笑みかけた。その微笑みは少し悲しげに見えた。
「来年東京の大学に進学するんだ。神宮を継ぐために神職の資格を取らなきゃ。旭光がいなくなって自分が神宮を継がなきゃならなくなって、本当は今年行くべきだったんだけど、どうしても踏ん切りがつかなくてね。くるみから旭光のことを聞いた時、決心したんだ。いつまでも自分の好き勝手に生きてちゃダメだって。あいつはくそ生意気だが、生きてる時も死んでからも責任を果たしたんだ」
旭光がほめられてちょっと嬉しかった。
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