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りんが出会ったとき旭光はもうこの世の人ではなくて、航貴さんと二人でいるところをこの先も決して見ることはできないだろうが、兄弟が一緒にいるときはどんなだったんだろうと思った。
ガラス職人になった兄に代わり、綿津見神宮を継ごうとした旭光。
灼熱の工房で、汗をかきながらガラス職人の夢をかなえようとする航貴さん。
彼らの頭上には突き抜けるような青空が広がり、彼らの間にはさらさらと潮風が吹き、見つめる先には海の水面は太陽の光を反射してきらきらきらとめいていたのだろう。
自分を兄弟から妹としか思われていないといった葉山くるみが、少しだけうらやましかった。くるみは二人と子供のころから同じ場所で同じ時間をすごしてこれたのだから。
生きている首藤旭光を好きになることができたのだから。
「ガラス職人はやめちゃうんですか?」
「……やめないよ。でもこれからは本業としてじゃなく趣味として続けようと思う」
「そうですか――来年から『玻璃の館』に職業体験に行く女子高生がへりますね」
「それって俺に関係があるの?」
航貴さんは不思議そうに小首をかしげる。
「奈津がそう言ってたから。私が『玻璃の館』に行ったのも、奈津に誘われたからなんです。奈津は航貴さんのことは噂を聞いて知ってたけど、まだ実際に会ったことなかったらしくて」
「あー……どーりでやたら『彼女いますか?』って聞かれるわけだ……女子高生のお約束かと思ってた――あ! もしかして、りんちゃんも俺が目当てだった?」
「これから受験勉強しなきゃならないですね。たいへんですね。大学でも勉強がんばってください」
「今、話そらしたでしょ」
バレてしまった……
だって、航貴さんが目当てじゃなかったって言ったら、航貴さんが傷付いてしまう……
航貴さんはいじけた顔になる。
「……なんかがっかり……」
「……な、何がですか?」
りんはちょっとビクビクした。
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