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「俺が東京に行っちゃって寂しいとか、『行っちゃやだ!』とか、ないの?」
「もちろん寂しいです! おじいさんも寂しがると思います! 航貴さんと仲がいいから!」
航貴の気を引き立てるために、りんは必死に明るく答えた。
「……そういう意味じゃ……ま、いいか。それより俺が東京に行ってる間、好きな人とか、彼氏とか作らないでくれる?」
りんは青ざめる。
憧れた愛の告白がこんなにも胸が痛むものだなんて――
「四年間も離れ離れで心配だよ。悪い虫がつかないように見張ることもできやしない。女子高なのがせめてもの救いだな――」
ちょっといたずらっ子のような笑みを浮かべ、りんの顔をのぞきこんだ航貴は、相手が恥ずかしがっているのではなく、困惑していることに気づいてしまう。
「――もしかしてりんちゃん、好きな人いる?」
「そ……それは……」
言葉に詰まって、うつむいてしまう。
くるみからの手紙を読んで初めて『あさひ』の漢字が『旭光』だと知った。そんな些細なことが今は大切で、決して実らないからといって芽吹いたばかりのこの想いをすぐに忘れることはできない。
でも好きな人がいるからと断ることもできない。『誰?』とたずねられても答えることができないし、答えたくなかった。
旭光と出会ったこと、旭光と話したこと、旭光に助けられたこと、りんが旭光を好きだということはりんだけの秘密にしておきたかった。
この想いを抱いたまま航貴さんを受け入れることができるのだろうか?
旭光が眠るこの海に答えは見つからない。
はっきり答えなかったりんを、航貴はどう思ったか――
「帰ろっか」
軽い感じで航貴は促したが、少し寂しげだった。
金色だった太陽はオレンジ色になり、空は茜色を濃くする。
軽ワゴン車の窓をりんは開けた。冷たい潮風が、航貴さんと二人っきりの息苦しい車内に吹き込んでくる。
航貴さんの告白に返事をすることができなかったりんを、航貴
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