糸屋綺譚

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 その奇妙な店は、わたしのよく知っている銀座の、お茶屋さんと呉服屋さんの間にありました。 「あら……? こんなところにこんなお店、あったかしら。ねえ?」  振り返ると、そこにいるはずの主人がいません。ああ、そうだ、今日はあの人は仕事があるから、ひとりで買い物に来たのでした。  もう一度、見慣れない奇妙な店をまじまじと見ます。紺色の暖簾には、細い文字で『糸屋』とあります。隣は呉服屋さんだし、糸の専門店かなにかかしら、と、首を傾げていると、その店の引き戸が開き、着物を着た可愛らしいお嬢さんが顔を覗かせます。
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