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薄暗い雨の日に、塔子は偶然そこにたどり着いた。 つい先日から手伝いはじめた伯父の会社のお遣いで、三時のおやつを調達するため御用達の和菓子屋を探していたのだ。 会社は明治時代からの茶の卸屋で、社員四名の零細企業ながらも、地域密着で飲食店や個人商店相手に細々と続いていた。 時々、こうやって御用聞きがてらに得意先の商店で菓子を買うのである。 初めて足を踏み入れる元城下町、広々とした幹線道路から一歩中に入ると車も通れない道で、昔ながらの町家長屋がひしめき合っている。 雲竜堂、雲竜堂…。 薬屋の角を右、ジグザグを二回越して、丸いポストの次を左、とメモを片手に狭い路地を少し歩けばたちまち方向がわからなくなった。 迷ってうろうろしてドツボにはまり、そろそろ社に電話でもした方が、とさらに迷っている内にだんだん道幅も狭くなり舗装がなくなり。 べそをかきかけたところで、その小さな池に突き当たった。
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