深海の記憶

名もなきもの

「いっけね！今日は飼育当番だった！」

不思議な生き物に見とれてすっかり忘れてた。夏休みは獣医学部で飼っている動物たちの世話が回り持ちで廻ってくる。今日 8/10 は僕の番だった！

慧斗は自分の朝食用に焼いたトーストを口にくわえると、急いで自転車に跨り学校に向かった。

学校は目と鼻の先……とまではいかないが、広い農場を自転車で15分ほど突っ切った先にある。もちろん、広い農場自体も学校の敷地なのだが。

今日の当番 牛舎に着くと、この学校で1番おせっかいで元気な 青山 花南（アオヤマカナン）が口をとんがらせて待っていた。

「もうっ！初っぱなから遅刻？慧斗はしょうがないなぁ」

怒った顔もかわいい。ついついにやけてしまう慧斗に気づいて、花南は“はい”と巨大なスコップを手渡す。