水の記憶

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「君たちに任せたよ、シエル、マリン。僕には霧で先がまったく見えないからさっ」 慧斗は独り言のように、興奮ぎみな真っ黒い犬と、しなやかに歩く猫とに話しかける。 「らじゃ!」 そう聞こえた気がした。僕は自分の行動がおかしくて、くすくすっと笑ってしまう…動物と話なんてできるはずもないのに。 いつも通り長い坂道を上り、閑静な住宅街を1人と2匹は抜けていく。 坂のてっぺんからの見晴らしが慧斗の1番好きな景色だったが、今日は湿った空気しか感じられない。 慧斗は深呼吸をして思いっきり朝の空気を吸い込むと、坂を下り始める。
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