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カブはジョウシの黒くてぷっくらとした立派なお尻のあとに続いた。湿った大地の下に埋もれた細く迷路のような道をさくさく歩いていく。やがて仲間が運搬作業のために何匹も行き交い混雑している出入り口から、まばゆい外の世界へと躍り出た。
「さあ、カブ。今日もでかいやつを狩るぞ!」
「はい、ジョウシさん! 今日も一発ススメバチといきやしょう!」
さんさん照りの太陽が浮かぶ晴天に向かってヒマワリの軍勢が一斉に背伸びしているその一帯は、緑色の主幹から生えた葉っぱが日傘となって地面に影が落ち、お陰でほどよい涼しさに包まれている。二匹は糸のように頼りない六本足で、冷たい土の上をずけずけと進んでいった。軽快な足取りだったが、頻繁にすれ違う他の仲間はそれを見るや否や、捨て台詞を吐くように言う。
「おい、カブにジョウシ。お前ら気を付けろよ。その内死んじまうぞー」
「そうよ。いまは女王様の産卵期なんだから。無駄な労働力はごめんだわ、こっちの身にもなってよね!」
「ダンゴムシなんかいらないんだよ! お前らは巣の掃除でもしてろ、あほぉ!」
二匹はあちこちから飛んでくる罵りの声にますます高揚していた。
「へんだ! オイラたちがその内立派な獲物狩ってきて昇進されるのが恐いんですよ、ジョウシさん」
「おうよ、カブ。あんな連中の言葉に耳を貸すな。俺たちは偉い。これぞ女王様への純真な忠誠だってことを証明してやんのよ。さあ、いくぞ!」
黒くてぷっくらとした小さなお尻と大きなお尻は、機敏な足運びで前進する。目指すはひまわりの軍勢を抜けた先にある見上げきれないほどの巨木――そこに感じる獲物の匂いに興奮し、彼らのギザギザな口は先ほどからパクパクと忙しなく動きっぱなしだ。
ところが周囲に仲間の姿が見えなくなったところまでやってきたとき、ジョウシが沈静化されてしまった声をもらした。
「いやあ、しかしだな。さすがに昨日の一件で俺も冷静になったよ」
「ジョウシさん? ……まさか、怖じ気ついてるんですか!」
カブは自分よりもずっと大きな体格をしたジョウシの脇に並んで、地震さながらに自分の幼い前半身を激しく揺らした。
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