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私は空を見上げている楓さんに話しかけます。
「楓さん……気持ちいいですね。ありふれた景色なんて、本当はここにも、どこにもないんですね」
「ええ。その様子だと……加奈子ちゃん、見つけられたみたいね」
「はい。私、早く早く一人前のティーマイスターになりたくて。ならなくちゃいけなくて、焦って……紅茶も、お茶も、なにも、楽しむことがなくなってました」
楓さんはふふっとほころばせる。
「加奈子ちゃん、私もそんな時あったわよ。今だって時々。どうやったらおいしい紅茶、中国茶、日本茶ができるかって、買い付けができるかって、悩んじゃってね。
でも、悩んで、悩んで、前に進めなくなっちゃったとしても……
今思うと、どれも大切な事だったと思うの。
お茶とおんなじで、おいしく淹れられた日とそうならなかった日もあるわね。全部つながっているのよ。
だから、加奈子ちゃんの気持ちは悪いとかいいとかじゃない。どれも必要でとても大事なものなの」
「でも、楓さん。いつまでも同じことを繰り返してるのは、良くないですよね。それでも、私は頑張りたくて……」
「大丈夫よ。加奈子ちゃん、とびっきりの頑張り屋さんだもの。
加奈子ちゃんにはもっともっと広い気持ちで、素直に過ごしていければいいと思う。そうなったら……加奈子ちゃんが楽しくなる」
「私が楽しくなる……」
楓さんはなんの気もなく話す。
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