賀川家の習性

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県庁から徒歩圏内。 官庁街からほど近い住宅街の一角にある庭付き一戸建て。 それが、真琴の懐かしい家――。 真琴にとって「田舎に帰る」と言っても、今勤務している桜野丘高校の方より実家の方が都会だ。 この街中とはいえ閑静な場所で、県庁に勤める父親と専業主婦の母親の元、真琴は育てられた。両親の影響を受けて堅実に、そして極々普通に…。 真琴はその両親の期待を裏切らず、持ち前の真面目さで道を踏み外すことなく順当に生きてきた。 自宅から大学に通っていたときでさえ、一度だって父親の決めた門限を破ったことはない。 その後、「教員」という堅い(と思われている)職業に就いた真琴は、両親にとっても自慢の娘だった。 その自慢の娘が帰省するとあれば、両親ともにウキウキ気分で待ちかねている。 真琴にとって実家とは、そういう場所だった。 門の前、ちょうど一台ほど駐車できるスペースに車を横付けして、古庄は車を降り立った。そして、緊張した面持ちで玄関の前に立つ。 同じく隣に並んで立った真琴は、その緊張をほぐすように古庄に微笑みかけると、インターホンは押さずに玄関のドアを開けた。 「ただいまぁー…」 吹き抜けの玄関から、真琴の声が通る。すると、奥の居間の方から「あっ!帰ってきた」と聞こえ、真琴の父親と母親がいそいそと出てきた。
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