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「それじゃ、正志ちゃんによろしくね」
真琴もそう言って、車に乗り込もうという時、母親があることを思い出す。
「そうだ。北海道の叔母さんからジャガイモがたくさん届いてるのよ。少し持って帰る?」
「えっ!?ジャガイモ?持って帰るわ。少しじゃなくて、たくさん頂戴!」
「まあ!しっかりしてること!」
母親が笑いながら、その場を離れる。
真琴も開けかけていた助手席のドアから手を離し、母親を追って勝手口の方へと向かった。
そこに取り残されたのは、古庄と父親…。
この気まずいシチュエーションは、もう何度目だろう…。車の横にたたずんで、手持ち無沙汰の時が流れる。
父親の方から話しかけてくれるはずはないので、何か話題はないかと、古庄は思考をフル回転させた。
「……和彦くん…」
古庄は、自分の耳を疑った。けれども、今この場で、自分をこんな風に呼ぶのは真琴の父親しかいない。
ゆっくりと父親に視線を定めると、父親もしっかりと見つめ返してくれていた。
「……はい」
突然襲ってきた緊張のせいで、古庄の声はうわずっている。
「…真琴を、よろしく頼みます」
父親は、最初に古庄がしたように、深々と頭を下げてそう言った。古庄も釣られて、頭を下げる。
「…あっ、あの。……はい!」
もう少し気の利いた答え方をしたかったが、焦ってしまってただの返事しかできなかった。
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