賀川家の習性

6/9
1192人が本棚に入れています
本棚に追加
/61ページ
そして、衝撃に対するこの周囲の動揺にもかかわらず、何も反応を示さないのが父親の方だ。微動だにせず宙を見つめているのは、〝怒り〟がそうさせているのかもしれない。 古庄は焦燥に駆られ、何か言わねばと立ち上がる。ソファーの横に立ち、一歩下がると、頭が膝に着くくらい体を折り曲げた。 「順番が逆になってしまった上に、報告も遅くなってしまい、申し訳ありません。お聞きのように、真琴さんと入籍を済ませて結婚しました。これから家族の一員として、よろしくお願いいたします」 真琴の父親に向かって、古庄は深々と頭を下げた。父親が何か発してくれるまで、頭を上げられなかった。 しかし、父親からは、なかなか言葉が出てきてくれない。 「あっ!お父さん……!!」 父親ではなく、真琴の張りつめた声が響いた。 反射的に古庄が頭を上げると、父親がそのまま前にのめって倒れていくのが見えた。 ゴンッ…!! 鈍い音と共に、父親の額がローテーブルにぶつかる。 「やだ!お父さん。気絶しちゃったの?正志ちゃん、手を貸して。お父さん、寝かしてあげないと…」 今度は父親のところに、真琴は駆け寄って、側に立っていた正志に声をかけた。 けれども正志は、そんな真琴を見つめて顔をゆがませる。
/61ページ

最初のコメントを投稿しよう!