1:雨の日は眠くなる

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「いんや、定時であがったよ」  いかにも寝起きの声でゆっくり話す。 「ふーん?」  俺は「どうぞ」と言われていないけど、孝宏が一歩さがって出来た空間へ身体を滑りこませ、ドアを閉めると鍵を掛けた。 「お邪魔します」  孝宏は気にする素振りもなく、よたよたとリビングへ戻って行く。その背中を目で追いながら、渡すタイミングを逃したプリンを冷蔵庫へ入れた。  リビングのローテーブルの上には食べ終えたコンビニ弁当の箱がそのままの状態で放置されている。孝宏はそれを片付けることもせず、ソファにドサッと音を立て座り、目の下の辺りを指先でボリボリ掻いた。その横に座ると大きなあくびをかまし、手のひらをべしゃっと自分の顔に押し当てべろんと顔を拭う。 「雨だろ、……もう眠くって……」 「ああ。ふふ。そうだな。お前、いっつもそうだったもんな」  小学校の時も、中学生の時も、高校でも。孝宏は雨の日にはボーッとしていることが多かった。教師の話も耳に入ってない。目は開いているのに見えていない。  孝宏曰く「雨の日は眠くなる」のだそうだ。  でもそれは赤ん坊のようで、放っておけない印象をいつも俺に与えた。  最後には睡魔に負けて眠ってしまう。そのギリギリの戦いを、教室で一人繰り広げる孝宏を見るのが好きだった。  思い出に浸っている間にも三発目の大あくびをする孝宏。 「寝るんならちゃんと風呂入って、着替えて寝ろよ。そんなところでうたた寝じゃ疲れとれないし風邪引くぞ」 「うん」  孝宏はガクンと落ちるように頷き、思い出したように頭を上げ俺を見た。
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