576人が本棚に入れています
本棚に追加
「んで、なんで海がここにいんの?」
「先に風呂入ってこいよ。話はそれからにする」
「んー? うん……」
孝宏はまだ半分寝ぼけている様子で立ち上がるとフラフラと隣の寝室へ入り、クローゼットから着替えを出し風呂場へ行った。
しばらくして出て来た孝宏はTシャツにボクサーパンツというあられもない格好。頭にタオルをかぶったまま「なんか飲むか?」と俺を見た顔は、憑き物が落ちたようにサッパリしていた。さすがにシャワーを浴びて目が覚めたらしい。口調も正常に戻っている。
俺はさっき見た冷蔵庫の中身を思い出しながら言った。
「ビール。あ、プリンが入ってるから明日までに食ってくれ」
「お! マジ? 今食う」
孝宏はビール二缶と白い箱を持って戻ってきた。
プリン食べながらビールを飲むつもりだろうか?
「どーぞ」
「サンキュ。てか、孝宏、酒強くなったの?」
「強いって程でもねーよ。一缶くらいしか飲まないし、毎日でもないし」
隣に座った孝宏の、相変わらず薄い体毛しか生えていない生足を眺めながらプルタブを引く。一気にゴキュゴキュとビールを喉へ流しこみ、乾きを満たそうとした。
「ぷはっ。だってさ、高三の冬のこと覚えてる? お前、俺んちで夜中にこっそりビール飲んで、あとでゲーゲー吐いてたじゃんね? アルコールは受け付けない体質だと思った」
「ああ、でも初めて飲んだからだろ」
そう言いつつ、隣で嬉しそうにプリンの蓋を開けている。どう見たってアルコールよりプリンの方が似合っている。
タオルからチラッと見える鼻先と嬉しそうに綻ぶ口元。栗色の髪の毛の束から水滴が落ちようとしている。俺はタオルを頭から取ると、孝宏の髪の水滴を拭いた。
「も少しちゃんと拭けよ。風邪引くぞ」
されるがままの孝宏。蓋を外したプリンをテーブルへ置き、スプーンを取ろうと箱の中へ手を入れる。
「うん。拭いたんだけどな」
「うそつけ」
こいつの大雑把な拭き方は学生の時からちっとも変わってない。プールなんて夏だから直ぐ乾くしいいけどさ。今は十一月。寒がりだからエアコン入れてるクセに矛盾してんだよ。
俺がうなじの辺りでタオルドライをしているのを一切構わず、孝宏は一口食べた体をふるふる身震いさせ、もう一口食べると手をパシッと目の上に当て天を仰いだ。
「とろりんうんめー」
最初のコメントを投稿しよう!