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「なんだよ急に」
孝宏の反応はやはりおかしなものだった。「急に」というのなら、アパートを訪れた時に言うべき言葉だ。久しぶりの再会だったのだから。
「いや、優しい兄としては色々気にならないのかな? と思って」
孝宏はプリンを見たまま淡々と言った。
「優しい兄としてはだな。泣かすなよ」
やっぱりアルコールは受け付けない体質らしい。たった一口飲んだだけなのに孝宏の頬がうっすらピンク色になってきた。俺はその頬に手を伸ばし、折り曲げた人差し指でそっと頬を撫でた。スベスベなのも変わらない。
怪訝な表情で、孝宏がやっとこっちを見た。
「なんだよ」
「うん。俺が鳴かしたいのは、紗奈じゃない」
「はぁ?」
眉を寄せ、難問に直面したかのような表情になる孝宏。俺はその間抜けな顔に顔を近づけ、ポカンと開いた口にキスした。そしてまた孝宏の反応を見る。
一瞬固まり次の瞬間、孝宏は大きく飛び退いてソファから落ちた。腕で顔の前をガードしている。
なんて面白い反応なんだ。
「……びっくりしたー」
「驚かせてごめん」
素直に謝ると、孝宏がツッコミを入れた。
「その謝罪もおかしくね?」
笑ってるつもりなのか、片頬を引き攣らせながら言う。
「孝宏のくせに鋭いじゃないか」
「くせには余計だよ」
「あははは」
俺が笑うと、孝宏は「はあぁ~」とため息を零しながら何事もなかったようにソファに戻ってきた。今のキスを冗談だと処理したらしい。俺はそんな孝宏の手を握り、ガツンと言ってやった。
「冗談で処理してんじゃねぇよ。お前が好きだって言ってんの」
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