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「はいはい、……は?」
孝宏の後ろに「なんですと?」と文字が見えそうな表情。俺はもう一度ゆっくりと、孝宏を見据えて言ってやった。
「俺は、お前が好きなんだよ。ずっと」
「お前何言ってんの? あー、大丈夫。お前いいやつだし。俺も好きだよ」
ウンウン。とまるで励ますみたいに微笑みながら俺の肩をポンポンと叩く。ちっとも分からない孝宏の肩を抱き、グイと顎を持ち上げると唇を塞いだ。そのままソファへ押し倒す。
目を真ん丸にして「うーうー」と呻きながら、いつもされるがままの孝宏が俺の背中をバシバシ叩いて押し剥がそうとする。俺はそれを無視して顎を固定したまま足の間に足を入れた。
「ちょっ、ちょっと待て!」
開いた唇に舌を滑り込ませると孝宏はもっと喚いた。日本語になってなかったけど。
フガフガしている孝宏から口を離し、至近距離で目を合わせる。
「好きだって言ってんの。分かった?」
蛇に睨まれた蛙みたいに、孝宏はすっかり大人しくなって小刻みにカクカクと頷いた。俺はもう一度、孝宏の唇へそっとキスしてムクリと身体を起こし、孝宏の手をグイと引っ張った。
起き上がった孝宏はなぜか正座して、明日の朝食用のプリンを開けると凄い速さでパクパクと口の中へ入れていく。
「……んだよ。口直しのつもりかよ」
俺は前を向いたままブスッとした声で言った。大人げないけど、目の前でやられるのは傷つく。
孝宏の手がピタッと止まり、スプーンを唇に当てたままプリンを見つめてボソボソと言った。
「うっせえよ。俺だって今パニックなんだよ」
「……そっか……ごめん……」
つまり好物を食べて気持ちを落ち着かせていたらしい。俺は俺で目の前のビールを掴み、残りを一気飲みした。缶をテーブルへ置き大きくため息をつくと、孝宏が憮然とした声で言った。
「なにしに来たわけ?」
「……会いにきたんだよ。未練を断ち切ろうと思って。でも、……やっぱ無理だわ。俺、お前が好きなんだよ」
「言ってることもやってることも、おかしいだろ」
こちらへ目を向けず、プリンばかり見ている孝宏。俺はソファから立ち上がり、テーブルをガガガッと前へ押すと、孝宏の前へあぐらをかいた。
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