序章―時を失った魔法使い―

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ダステア歴810年の秋。西部連合軍は、ローゼルディース最東端の村、ノトアに東部連合軍の侵入を許してしまった。国境であるソーナラ山脈の頂を東部連合軍は一夜にして越えてきたのだ。 リンツィアは驚愕した。ノトアは彼の故郷であった。彼の両親や愛する妻は王国の中心、王都ロゼリディアに移住してそこにはすでにいなかったが、生まれ育ったその地がついに戦争に巻き込まれてしまったのだ。 そして彼は、自ら率いる魔導隊とともに東部連合軍を迎え討つこととなった。 焼いた。 全てを燃やし尽くした。 彼は自らの魔法で故郷を何も無い焼け野原にした。 リンツィアがノトアの近くまでたどり着いた時には、すでに村は敵軍に占拠されていたのだ。敵軍のこれ以上の侵攻を防ぐにはそうするしかなかった。 そう、こうするしかなかったのだ・・・。 彼は自分自身に何度も言い聴かせた。自分のした取り返しのつかないことを正当化するように。 国の指揮を執る王は彼を褒め讃えた。しかしそんな称賛など彼の耳には届かなかった。
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