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戦況は悪化していった。
ローゼルディースは海に面していて、気候も穏やかなので食料に困ることはなかったが、国民や軍人たちの「この戦争はいつまで続くのだろう」という不安は次第に大きくなっていった。
そしてリンツィアにとって更なる絶望の時がやってくる。
ダステア歴812年、夏。
北部同盟軍が王都ロゼリディアへ侵攻を開始した。ロゼリディアに滞在していた西部連合軍の兵力と侵攻してきた北部同盟軍の兵力はほぼ互角であったが、西部連合軍は敵の目的を理解していなかった。さらに常勝無敗のトルネール魔導隊も遠征で王都に不在であった。
王都に侵攻を開始した北部連合軍は王国の重役の親族たちを殺害、あるいは拉致していったのだ。その中にはもちろんリンツィアの両親と妻も例外ではなかった。両親は敵に見つかってすぐに殺害され、自宅の居間で息絶えているのが発見された。
妻は拉致され、敵の駐屯地で捕虜となっていた。他にも大臣の娘や、将軍の姪など若い女たちは捕虜として拉致されたようだ。
北部連合が捕虜解放の条件として提示したのは「無条件降伏」と「戦争終結後に北部同盟の国々と不平等な貿易条約を結ぶこと」であった。国としては断じてそんな条件を飲むわけにはいかなかった。
国を束ねる王。大臣。王国軍を率いる将軍。そして10人の魔導隊長が緊急招集され会議が開かれた。捕虜・・・ではもうすでにない、人質をどうするのか。条件を飲むのか。
「無条件降伏など飲むことはできない。我々には勝利するしか選ぶ道はない。」
というものであった。つまり、人質を見殺しにして北部同盟軍を殲滅する。捕虜に王族がいないことが大きく影響した。もし捕虜に王族の者がいたら王家存続のために無条件降伏、あるいは救出作戦が練られていたかもしれない。だがしかし悲しいことに当時の王国は王族至上主義であった。
この殲滅作戦を推したのは他でもない、将軍とリンツィアであった。
彼らの中には「私情に流されず王国のために戦うべき」という忠誠心があった。妻も、自分に何かあっても王国を護ってと常々言っていたのだ。
それに。
彼は敵軍殲滅の混乱に紛れて妻を救おうと考えていた。
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