序章―時を失った魔法使い―

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リンツィア・トルネール。 彼は絶望の内にいた。 愛する者をすべて失い、生まれた故郷も失い、生きていく力を失いかけていた。 天才魔術師はそんな中でも大変なことを考えていた。 魔術には「禁忌」がある。 それは「時間を巻き戻す魔術」と「時間を進める魔術」だ。『時間を支配しようとする者は、神の罰を受け、人ならざるモノとなり果てて、永遠の時を彷徨う。』魔術師なら誰もが知っている伝承である。 彼はその禁忌に挑戦しようとしていた。時間を巻き戻し、自分の過ちを無かったことにするのだ。故郷を、両親を、そして妻を取り戻すのだ! そして天才は完成させた。今まで誰も成し得なかった「時間逆行の魔術」を完成させ、自らの残りの寿命の半分を対価に魔術を発動して、ダステア歴809年のローゼルディースに戻ってきた。 これで故郷を護り、両親を護り、妻を護ることができる。彼は希望に満ち溢れていた。 しかし、東部連合軍のノトアへの侵攻はリンツィアが以前経験した時よりも2日早かった。侵攻を防ぐにはまたノトアを焼くしかなかった。 812年の北部連合軍の王都侵攻の際も王都にはいることができず、妻は捕虜にすらならず自宅で殺害された。
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