第1章 帰郷

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第1章 帰郷

この町に戻って1ヶ月 アタシは実家から自転車で10分ほどの場所にある弁当工場で働いていた。 短大卒業後、1年だけOLをした後結婚 以来ずっと専業主婦だったアタシは、まともに働くこと自体8年ぶりだ。 この仕事は思いのほかキツかった。 ヒートテックと靴下を2枚重ねにした上から 分厚い作業着に覆われていても、足元から底冷えする。 この真冬に冷蔵庫の中にいるようなものなのだから、仕方ない。 衛生管理の為 目のまわり以外は全て覆われた状態 従業員は60歳を過ぎたおばちゃん2人とアタシの3人だけ。 会話もなく 次々流れてくる容器に黙々と惣菜を詰めていく。 それでも1ヶ月も続けていれば この作業にもだいぶ慣れてきた。 「休憩入りまーす!機械止めまーす!」 工場長の言葉にラインが止まる。 15分の小休憩 おばちゃん2人は煎餅をかじりながら 興味津々で質問してくる。 「ねぇ、村木さんて東京に住んでたんだって? 離婚したって聞いたけど、なんでまたこんな工場でパートしてんの? 子供もいないんでしょ? アンタならもっといい仕事選べたでしょーよ」 「やだやめなさいよ山田さん! 人にはいろいろあんのよ! あたしなんかも若い頃は………」 …オバサンという生き物はなぜこんなにも詮索好きなんだろう。 アタシは仕事なんてなんでもよかった。 実家に戻ったその日に新聞広告の求人で目についた仕事に応募した、ただそれだけの理由。 こんな田舎にしては時給もそこそこだったから。 こんな田舎に一生住むつもりは毛頭ない。 1年だ 1年間ここでお金を貯めたら東京に戻るんだから。 大地と再婚して大地の子供を産んで 今度こそ幸せになる。 「休憩終わり!作業再開して下さーい!」 しゃがれた工場長の声で アタシはまた黙々と惣菜を詰めだした。
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