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控え室に入るとよく見知った後ろ姿がそこにあった。私に一から仕事を教えてくれた人。私の偉大な師匠の一人。
「中川さん…」
私のかけ声で振り向いた彼は昔と何も変わらない、優しい笑顔を向けた。
「受賞おめでとう。まさか春川がこんな大物になるなんて…想像以上だよ」
「すべて中川さんのおかげです」
あなたに出会えなければこうしてここに立っていない。アメリカに留学することも、もしかしたらゆずと出会うことだってなかったかもしれない。
「俺は少し手を差し伸べただけ。頑張ったのは春川自身だ。弟子がこんなに大きくなるなんて…本当に鼻が高いよ」
私の頭をポンポンと撫でる中川さんの手は暖かい。頑張ってきて本当によかった。たくさんの人たちに支えられここまで来れたんだ。
そう思うと鼻の奥がツンとした。
「あ、ありがとうございます」
「これから記念講演なんだから泣くなよ」
「すいません」
あーぁ、と苦笑いする中川さんにつられて私も笑う。
『ミスター中川。少し彼女を借りてもいいかしら?』
凛とした声が部屋に響いた。
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