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博田が角崎からの電話を受けたとき、時刻は深夜2時を回っていた。
体力には自信のある博田でも徹夜と通常勤務をこなしたあとで、へとへとに疲れていた。
ようやく眠れると、倒れるようにベッドに横になったところだった。
電話の向こうにいる、せっかちな角崎は開口一番に言った。
『ヒロ、来週末帰ってこれるか?』
「帰れる訳がない」
一言のもとに却下して切ろうとした博田の耳に、信じられない言葉が飛び込んできた。
『わとちゃんが男と同居して、転職もした、って聞いても?』
くたくたに疲弊していた博田の脳が一気に覚醒する。
「誰から聞いた?」
『くすみん。優くんと偶然会ったってさ』
優に久須見か・・・・
優のブラコンと生意気な性格は承知しているが、わざわざ久須見に嘘をつく理由がない。
すると、同居の意味も確定してくる。
角崎がこういう言い方しかしないのは、これ以上の情報がないからだ。
「帰る。当然帰る。来週末だな、どこに行けばいいのか教えてくれ」
電話を切った博田は、疲労感がどっと戻ってくるのを感じた。
ベッドに倒れ、天井をぼんやりと眺める。
“わと”が男と同居・・・・
心のどこかで、“やっぱりな”という声が聞こえた。
博田は入学してすぐにテニス部に入部した。
同じ日に入部した新入生は透だけで、二人は同じクラスということもあって、すぐに仲良くなった。
体格がよくキリリとした風貌の博田とは違い、透は少し細身のやさしげな雰囲気をしていたが、性格は博田より潔く、意志をしっかり持った男らしい少年だった。
だから、中等部2年の時、透の視線の先にいたのが高等部の、ことのほかきれいな顔立ちをした先輩だったことには相当驚いた。
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