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それを知っていたのは博田だけだ。
透が無自覚なことにすぐに気づいた博田は、中高一貫の男子校という環境は彼にとって非常に危険だと判断した。
中等部の時点ですでに生徒同士の恋愛の噂がひそやかに流れていることを知っていたし、高等部に至っては言わずもがなだった。
そして、何よりおそろしいことに、透の容姿は清廉な性格とも相まって、男子しかいない集団の中では目立つことこのうえなかった。
博田は、彼が自らの性的指向を自覚したのちに相手を選ぶのを邪魔する気はなかった。
ただ、自覚もなく、性的欲求の薄そうな彼が、訳のわからないうちに襲われたりするのだけは絶対に避けなくてはならないと思っていた。
そして、できることなら、きれいな先輩へのあこがれが思春期特有のものとして終わり、いつかはしかるべき女性と出会って結婚し、幸せになってほしかった。
それが彼にふさわしい人生だと思っていた。
友人たちは全員ストレートだったから、自分たちが女子相手に妄想に耽るのは棚に上げて、男子生徒が彼らの大切な友人である彼にいやらしい視線を向けるのを我慢できなかった。
博田と6人の友人たちは、その後5年に渡ってそれと気づかれないようにさりげなく、しかし徹底的に透をガードし続けた。
透がどこへ行くにも誰かが一緒におり、絶対に一人にはさせなかった。
幸いなことにあのきれいな先輩が卒業して以降、透の目を引く生徒は現れず、透に恋心を抱いた生徒が想いを打ち明けるチャンスもなかった。
透が大学受験に失敗したことで、大学では離ればなれになってしまったが、彼に彼女ができたと聞いたときにはみんな自分のことのように喜んだ。
アメリカの地でそれを聞いた博田も安堵した。
やはりあれは思春期特有のもので、自分がしたことに間違いはなかったのだと確信していた。
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