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北川優(きたがわすぐる)は夕刻の札幌の地下街を駅から大通りの方向へ、ろくに前も見ず早足で歩いていた。 昨夜、遠距離恋愛中の彼女とスカイプで口論になり、一方的に通信を切られたことにまだ腹を立てていた。 離れてからまもなく半年が経とうとしており、2週間後には彼女に会いに行く予定にもなっていた。 いつものごとく口論の非が彼にあるのは間違いなく、彼もそのことを自覚しているが、自分から謝る気にはなれなかった。 一直線に地面を見て歩いていたら、狭い視界に黒い革靴が入り、避けようとした矢先に相手も同じ方向に動く。 逆に動けば、同時に相手も動いて、お見合い状態になってしまう。 優がイラッとして顔を上げると、目の前に身長が同じくらいのおとなしそうなサラリーマンが立っていた。 二人は互いを認め、 「「あっ!」」 と声を上げた。 何もなかったかのようにそそくさと逃げようとするサラリーマンの腕を優が掴んだ。 「くすみん、めっちゃ久しぶり!! なんでこんなトコいるの??」 くすみんと呼ばれた男性は、優の邪気しかない笑顔を見てあきらかに怯えた風だった。 どうにか優を振り払おうと試みたものの、ガッチリと掴んだ手が自分を離しそうにないことを悟り、しぶしぶ抵抗するのをあきらめた。 「時間的に仕事終わってるよね。ちょっと付き合ってよ」 優は彼の返事を待つことなく、半ばひきずるようにして彼を最寄りのカフェへ連行した。 優は久しぶりに会った久須見(くすみ)を前に上機嫌だった。 こんなにおもしろい獲物を逃してなるものかと、優の勘が告げていた。 一方の久須見は途方に暮れたような表情をして、コーヒーをすすっている。 「で、くすみんは何でこんなトコにいんの? 出張? なんだっけ? 兄貴の友達ってみんな有名大学に通って、すげーとこに就職してたよな?」 「久須見。一応、僕が年上なんだから、くすみんはやめてほしい」 まじめな顔で諭してくる久須見がおかしくて、優はつい笑ってしまう。
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