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背中には確かに重みがある。抱き着くかのように伸し掛かられているのは変わらない。 しかしそのまま、俺の衣服も当たり前だがちゃんと身に着けたままだ。 なのにどうしてか膝も踝も、布越しに触れられている感触ではない。 冷たい指先が辿ってきている。 俺は椅子に座っていて、その背後から覆いかぶさって密着されている……背もたれどこ行った? スラックスは捲られていないし、靴下だってちゃんと履いているはずだ。 それ以前にこんなに密着していて、足首まで手が届くはずがない。おかしい。 気が付くとゾッとした。伸し掛かってきている体は体温を感じない。むしろ冷たいぐらいだ。 「――っ、」 冷たい誰かが腰に腕を回し、両足首を掴んで、誰かが、誰かが俺の顔を覗き込んでいる。 フーッ、フーッ。 冷たく荒い呼吸が耳にかかる。 違う、これ、伏野さんじゃない。っていうか人間じゃない。 今までそんなものの存在を感じた事も信じた事もない。 けれど確かに何かが俺を掴んでいる。
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