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「ここ、静かだし、昼寝にはもってこいなんだ。だから内緒にしといてね? 真白ちゃん」
にやりと笑って見上げてくるのは、上品なワッフル編みのカーキニットに、黒のスキニー。私服姿の臨時教師。
全然気づかなかった。まさかこんなところで寝てる人が居るなんて、普通思わない。
それよりも、私服姿を見てすぐに脳裏に浮かんだのは、先週の土曜日のこと。
『デート』だったなんて絶対に思いたくないやり取りと、赤いブリムハット。リーフイヤリング。それから月曜日の――
『君の耳元で揺れていたポプラ、すごく良く似合ってたよ?
まさに心震えたよ、俺』
低い囁き声。
あの日、私を震わせる言葉を発した後、この人からは視線さえ私に向くことはなかった。今日の授業までずっと。
なのに今、そんなことなかったみたいに、しれっと名前で呼んでくるなんて。
「何で、名前で呼ぶの? そんなに気軽に……」
自然と手が伸びるのはスカートのポケットの上。そこで思い出す。
今日に限って、万年筆を家に忘れてきたことを。
月曜日は囁かれた内容にテンパって返せずじまいで、その後ずっと無視されてたから返すタイミングを失ってた。
で、昨夜どうしようって眺めながら寝ちゃって、そのままベッドに置き忘れてきた。
せっかくの返せるチャンスだったのに、私の馬鹿!
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