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「すっごい良かったよ。完璧だった」
「あんなに不安がってたのが嘘みたい。それに、凄くかっこいい! ドキドキしちゃうよ」
すずちゃんが少し顔を赤らめて言うものだから、まるで恋する男の子を見つめているみたいだ。
「やっぱりロミオはイケメンじゃないとね。とにかく、二人の顔が舞台から見えたから気合い入ったよ」
ミコちゃんの表情は、舞台を成功させた達成感に溢れていた。
「それだけじゃないんじゃない? ミコちゃんのお父さんとお母さん、一番前で見てたでしょ?」
「気付いちゃった? 一番騒いでて、恥ずかしいったらないよ」
「そんなこと言って、本当は嬉しいくせに」
すずちゃんの問いかけに、ミコちゃんはぶっきら棒に答える。でも、その表情から気持ちは逆なんだと手に取るように分かった。 私の両親は、今日が文化祭だってことすらきっと知らない。休日なのに、制服を着て出かければ気にもならないみたいだ。
「そう言うすずちゃんだって、いっつもお母さんと買い物に行ったりしてるじゃない? 友達親子みたいで仲良しだよね」
「お母さんが全然子離れしてくれないの」
すずちゃんの笑顔もミコちゃんの笑顔も霞がかって見える。 まただ――。 大好きなミコちゃんとすずちゃんなのに、二人の会話を透明な壁越しに聞いているような感覚に陥る。身体にすっと冷たいものが流れて行くような瞬間。 本当は一人きりなんだって、苦しくなる。
「……ね、シロちゃん」
「シロちゃん……?」
二つの顔が私に向けられている。慌てて笑顔を貼り付け適当に相づちを打った。
「う、うん」
でも、二人の表情は笑顔ではなかった。
「ねえ、シロちゃん。本当は何か、悩みとかあるんじゃない?」
「……急にどうしたの?」
すずちゃんの突然の言葉に驚く。
「前から何となくそんな気がしてて。何かあるなら話して? いつも一緒にいるんだし、シロちゃんの力になりたい」
真剣な眼差しが私には痛い。二人を前にしても、心が固まったままの自分が苦しい。
「本当に、何もないってば」
「そう? でも、何かあったらいつでも話してね」
優しくて、でもどこか寂しそうな微笑みをくれたすずちゃんたちからそっと視線を逸らす。
「うん。もちろんだよ」
本当の自分なんて、二人に見せられない。こんな私を知ったらきっと、もうそばにはいてくれない。
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