40人が本棚に入れています
本棚に追加
「あ、私、そろそろ楽屋に戻らなきゃ」
「そう言えば、私もクラスの当番の時間だった。シロちゃんはこの後どうする?」
いつもの三人の間に流れる雰囲気に戻ったことに、どこかホッとする。
「そうだな、私は少しそのへん見て回ってから教室に戻るよ」
「分かった。じゃあ、後でね」
二人が手を振って私に背を向ける。 それを見て、無意識のうちに溜息をついている自分がいた。 少し、一人になりたい。そう思った時だった。
「また、そんな顔して」
え? 誰――? 声だけが耳に届く。声の先を探して視線を彷徨わせた。
「こーこ。上だよ」
思わず見上げてしまってすぐに後悔した。 中庭を囲む校舎の二階の窓から顔を出す、赤司さんの顔がしまりなく緩んでいる。
「上から見る真白ちゃん、いい眺め。この前の礼拝堂では下からだったけど、上からもいいね。セーラー服ってそそるな。なんか見えちゃいそうで」
「――っ!」
咄嗟にセーラー服の胸当てをぎゅっと握り締める。 もう、本当に最低!!
赤司さんとはもう関わらないことに決めていた。キッと睨みつけた視線を前に戻し、無視して赤司さんに背を向ける。
「真白ちゃんさ、あの二人と仲がいいんじゃないの?」
既に歩き出しているというのに、そんなのお構いなしに声を掛けて来る。 でも、その声がさっきと違う声音で、私は思わず振り返ってしまった。
「……え?」
「宮林さんと長谷川さん」
「それが、何か?」
突然何の話なのか。本当に訳が分からない。
「一番近くにいる友人にまで、そんな風に距離を置くような表情しちゃダメでしょ」
「何、言って――」
緩んでいたはずの表情はどこかに消え去って、珍しく真剣な眼差しだった。
「近くにいるのに何も言ってもらえない。それが、どれだけ傷付くことか分かる?」
さっきの私たちの会話、ずっと上から見てたの――?
「『私はみんなとは違う』って顔。どこか諦めたような顔。君が考えている以上に気付くものなんだよ。距離が近ければ尚更ね」
私が心の中で何を考えているのか、どんな感情が渦巻いているのか、この人には見透かされていた――?
最初のコメントを投稿しよう!