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「赤……、先生には関係ないです。放っておいて!」
絞り出すように声を出すのに精いっぱいで、私は立ち尽くしたままぎゅっと目を閉じた。 これ以上見られたくない。
全部、見透かされそうで、私の心、全部丸裸にされるみたいで。 いつもいつも、変なことばかり言って、私をからかって。どこまでが本気で何が冗談か全然分からないのに、時おり真剣な顔して。 もう、パンクしてしまいそう――。
「真白ちゃん」
「えっ!」
上から聞こえていたはずの声が、真正面から聞こえる。 驚きのあまり顔を上げるとすぐそこに、少し息を切らした赤司さんが立っていた。
「驚いた? 俺、空も飛べるんだ」
眼鏡の奥の目が、またいつのも目になって笑ってる。そんな冗談に、つられて私も笑ってしまった。 いつだって、心揺さぶられて。 この人の前にいると、怒ったり驚いたり、笑ったり、ドキドキしたり。 固まったままの私の心が動き出そうとする。
「君が思っている以上に、この世の中は温かいよ? ポプラの葉の色みたいにね」
どうしてこんなに心が震えているんだろう。
「言ったでしょ? 『助けてほしい時は、恥ずかしがらずに叫ぶんだ』って。きっと誰かが来てくれる」
初めて赤司さんに会った日、確かにそう言っていた。
「まあ、その『誰か』は、運命の人である俺なんだけどね?」
真面目なことを言ったかと思えば、またそんないい加減なことをその口は言う。 でも、怒りたいのに本気では憎めない。
「そんな軽い『運命』はいりませんっ」
だから、こうして怒ったふりをするくらいしか出来なくて悔しい。 誰にも曝け出せずに来た、心の中を覆う灰色の世界。 本当は、投げやりな自分。それでいて、誰かに気付いてほしくて足掻いていた自分。 そんな本当の私を、声にならない助けを、赤司さんは分かってくれたような気がして。
それすら、私の勝手な思い込みなのかもしれない。本当にただの軽い人なのかもしれない。 でも、これだけは事実。 私、赤司さんの前だと、自然と自分の感情をそのままに出してしまってる。
「俺は軽い男にでもなるさ。君が心から笑えるようになるならね」
そう囁いた赤司さんの目はどこかやっぱり切なげで。どの赤司さんが本当の赤司さんなのか分からないけれど、今私の目に映る瞳には深い思いが潜んでいるように見えた。
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