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「あー、分かったって。じゃあ、木曜な……えーと、ごめんね。質問中だったのに」
電話を切った赤司さんがすずちゃんに謝った後、私にも目線を向けてきた。
「先生。今の、彼女さんからデートの誘いですか?」
「え? 違うよ。同じ研究室のヤツだよ」
「同じ研究室? あっ、職場恋愛? キャー、素敵!」
「や、宮林さん。研究室は職場じゃな……あ、聞いてない」
赤司さんのツッコミも、妄想モードに入ったすずちゃんには届かない。すずちゃんって恋バナの妄想、いつも激しいのよ。
それよりも、どのタイミングで万年筆を返そうかと、赤司さんの机に視線を伸ばす。ポケットをさすりながら。
「ねぇ、秋野さん。ポプラの学名の意味、知ってる?」
「っ! なっ、何ですか、いきなり!?」
赤司さんの口から突然出た『ポプラ』ってワードに、有り得ないくらい動揺してしまった。声も、激しく裏返ったし。
「『震える』。
ポプラの葉が、ほんの僅かな風でもさやめくことからの由来なんだ」
震える……?
「君の耳元で揺れていたポプラ、すごく良く似合ってたよ?
まさに心震えたよ、俺」
不意に立ち上がった赤司さんがそっと落としてきた、低い囁き。
横に居るすずちゃんの存在を一瞬忘れるほど、私の身体も打ち震えた。
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