先生

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家に入った途端に聞こえてきた遥奈の声と足音に、貴之の心臓が跳ねそうになった。 「シャワー、シャワー♪ 先生が来る前に浴びなくちゃ」 奥のほうから浴室の扉が閉まる音がして、状況を把握した。 (家庭教師が来る前にシャワー? ……いや、待て……落ち着け。今日は体育の授業があったんだから、シャワーくらいおかしくないよな) 嫌な推測を打ち消しながら、靴を靴箱に隠し、音を立てないように階段を上る。そして、しばらく入っていなかった遥奈の部屋に忍び込み、クローゼットの中に隠れた。 クローゼットの中は遥奈の服でいっぱいで、幼馴染みの香りが鼻腔をくすぐった。背徳的な気分とは別に、興奮が湧き上がってくる。しかし、すぐに貴之は冷静になった。 (やっぱ駄目だよな……こんなこと) 幼馴染みとはいえ、これは行き過ぎたストーカー行為だ。一時の衝動に駆られ、過ちを犯したことに、今更ながら後悔と罪悪感が強くなってくる。 (……今ならまだ引き返せる。抜け出して帰ろう……) そう思って、クローゼットを開けようとした瞬間、ドアが開く音がして上機嫌な遥奈の声がした。
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