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「はーっ、さっぱりしたぁ」
シャワーを浴び終えたばかりの遥奈は、身体にバスタオルを巻き付けただけの姿だ。隙間からその姿を見ていた貴之は、重大なことに気がついた。
「おきがえおきがえ♪」
そう、シャワーを浴びたなら、次にするのは着替えだ。遥奈がクローゼットを開いてしまったら、貴之が隠れていることがバレてしまう。
血の気が引いて動けない貴之の前を、しかし遥奈は素通りして、別の洋服タンスをあさり始めた。
「あ……その前に……」
一瞬後、部屋の中に甘い匂いが広がった。
(……香水?)
家庭教師を迎えるのに、そこまでするだろうか。これではまるで、これからデートをするみたいじゃないか──。
貴之の頭に嫌な想像が甦ってくる。
貴之から死角になる場所で着替えた遥奈は、ベッドに寝そべって足をぱたぱた揺らしながら雑誌を読み始めた。それから数分後──。
「あっ!」
チャイムが鳴るなり、遥奈は嬉しそうに部屋を飛びだしていった。やがて、遥奈に続いて家庭教師の立花裕也が部屋に入ってくる。相変わらずの端整な顔立ちで、貴之は暗いクローゼットの中で、言いようのない敗北感を覚えてしまった。
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