先生

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「たかくんにも、勉強……教えてもらってたこと、ありました……でも……」 「でも?」 「……でも、たかくん、教えるの上手くなくて……先生みたいにわかりやすくなくて……」 さらに追い討ちをかけられて、貴之は頭を殴られたような衝撃を受けた。今まで遥奈のために多くの時間を割いて、根気よく勉強を教えてあげていたのに──。 「遥奈、そんなこと言っては、たかくんに失礼だよ。僕は教えるプロだけど、彼は普通の人、ただの同級生だからね」 立花からそんな風に言われて、怒りを覚える。貴之のことをわざわざ話題に出したのは立花のほうなのだ。それなのに、 「先生、優しいんですね……」 そんな立花を、遥奈は心から信頼しているのだ。 「……はは、そんなことないよ。それよりも時間が勿体ないから、そろそろ勉強を始めようか?」 身を寄せられていたというのに、立花はあっさりとした態度で離れた。しかし、目は笑っていない。一見、紳士的に見えるが、その実は肉食系なのだ。それは、同性である貴之には見抜くことが出来た。だが──、 「先生……。今日……うちの親……いないんです……」 遥奈はそんな立花を、真剣な、必死さすら感じる瞳で、熱っぽく見つめた。嫌な想像が、現実になる。心臓の鼓動が激しくなり、眩暈もしてくる。
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