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「今日も良いお天気だねー」
隣を歩く幼馴染み、茅野遥奈の無邪気な声。
思春期を迎えても、こうして自分と一緒に歩いてくれることを、伊藤貴之は素直に嬉しいと思った。
触り心地の良さそうな桃色の長い髪、愛らしい大きな青い瞳、幼さの残る整った顔立ち、桜の花弁のような可愛らしい唇、そして柔らかそうな肢体。いつも良い香りがして、貴之にとっては常に遥奈のフェロモンを嗅いでいるような気分だった。つい貴之は、幼馴染みに無遠慮な視線を注いでしまう。
「どうしたの? 変な目で見て」
視線に気がついて、遥奈は顔を向けた。
「えっと……変な目だったかな?」
「うん、なんか挑むような目つきだった」
「挑む、か……ケーキ早食い対決でもする?」
「そんなことしたら太っちゃうよー!」
遥奈はくすくすと笑う。
「たかくんは冗談ばっかりなんだから」
非難するような口調だが、目は笑っている。貴之のちょっとした話にも笑ってくれる、心安らげる存在。それが遥奈なのだ。
だから、と、貴之は思う。──失いたくない大切なもの。それが、目の前の幼馴染みなのだと。
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