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「たかくん、おはよっ」
貴之が自宅を出ると、遥奈が立っていた。
「……」
「……たかくん?」
「あ、ああ、おはよう遥奈」
辛うじて声を絞り出す。
あの悪夢のような光景を目の当たりにして以来、貴之は遥奈とまともに目を合わすことが出来なくなっていた。
「今日から新学期だね!こうしてたかくんと登校するのも、なんだか久しぶり」
「そ、そうだね」
吃りながら答える貴之。
あれから月日は流れ、今は九月。
あれほど待ち遠しかった夏休みは、一度も遥奈と会わないままに終わってしまった。
(遥奈……また一段と綺麗に、大人っぽくなったような……)
遥奈の横顔を覗き見る。見た目には以前と変わらないはずなのだが、貴之には艶めかしい雰囲気の様なものが感じられた。つい幼馴染みに無遠慮な視線を注ぐ。
「たかくん?」
「!な、なに?」
「たかくん、また変な目付きになってたよ?」
「そうかな?」
いつかもこんな会話をしたな、と貴之は思い出す。
だが今の遥奈は──
「なんだか、いやらしい目付きになってた」
「ッ……!」
僅かに頬を染め、悪戯っぽい笑みを浮かべる遥奈。かつての幼馴染みからは想像出来ない変化に、貴之は言葉を失った。
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