処女

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貴之は鍵を差し込み、自宅の扉を開く。 「ただいまー」 「お邪魔します」 貴之に続いて遥奈も足を踏み入れる。 父は仕事、母は町内会の集まりで夜まで帰ってこない。 「彼氏の家って思うと、少し緊張しちゃうね」 「昔からよく来てたじゃんか」 「恋人としては初めてだよ?」 遥奈が嬉しそうに微笑む。 幼い頃からお互いの家を行き来していたため、遥奈がこの家に上がることは何度もあったが、恋人としては確かに初めてだ。 「それもそっか……遥奈は俺の部屋で待ってて。飲み物持ってくから」 「うん。ありがと」 遥奈が階段を上るのを見送り、台所に向かう。 大きく息を吐き、頭を整理する。 あの日、クローゼットから見た光景。 大切な幼馴染みが、他の男に弄ばれるのを隠れて見るしかできない絶望感。 (いや、もう俺と遥奈は恋人同士なんだ。そんな昔のこと、関係ないよな) 1度も会うことのなかった夏休み。 その間に何があったのか、気にならないと言ったら嘘になる。 夏休み前とは別人のように大胆に、艶っぽくなった遥奈。 しかし貴之は、そんな恋人を一層魅力的とも感じていた。 (あの家庭教師……立花裕也が辞めたことも、遥奈は何とも思ってなさそうだったし) きっと遥奈も目が覚めたのだろう。年上のイケメンに煽てられ、気を良くしていただけだろう。 (……そうだよな。遥奈はもう俺の彼女なんだ。あんな奴、気に留めるだけ損だ) 言い聞かせるように、心の中で反復する。 再度、大きく息を吐き、遥奈の待つ自室に向かった。
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