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やはり聞かないわけにはいかない。
あの日見た悪夢の様な光景を、知らぬ振りで通すのは間違っている。
「ぁ……その……」
分かっていても言葉が続かない。
貴之は自分の不甲斐なさを情けなく思った。
「緊張してるの?」
唇を塞がれる。すぐに離れ柔らかい表情を向けられる。
その顔は家庭教師に向けた女の顔ではなく、幼い頃から想い続けた大好きな幼馴染みのものに見えた。
(そうだ……遥奈はもう俺の恋人なんだ。あんな奴のこと気にしないって決めたじゃないか)
「少し緊張してるかな。遥奈は?」
貴之は何も聞かないことにした。
あの日の出来事、夏休みの間のことは、今の貴之と遥奈には関係ない。
そう自分に言い聞かせるように。
「もうっ。そんなこと聞かないでよ」
せがむように見つめられる。
今度は貴之から、何度目かになるキスをする。
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